仮囲いアートが街を彩る!世界の仮囲いアートをデザインや活用例を解説しながらご紹介。
2024.08.29
- #アート解説
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ART×CULTURE
工事現場でよく見かける白い壁。仮囲いと呼び、建設現場や工事現場で設置され、主に安全確保のための壁です。この記事を見てくださっているあなたは、この「仮囲い」って少し無機質で威圧感を感じるんだよなぁと思ったことはないでしょうか? もしくは街を歩いていて、素敵な仮囲いに出会い検索してくれた方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、100作品以上の壁画制作を手がけるNOMAL ART COMPANYが、仮囲いを活用してアートが街へもたらす効果と共に様々な事例をご紹介致します。
【著者】 NOMAL ART COMPANY/スタッフ
1992年生まれ。これまでオフィス・店舗・パブリック等の数々の壁画ディレクションに携わる。壁画を初め、アート作品に込められたメッセージや意図が見えた時に悶絶するタイプ。ストーリーがあるものに愛着を持ちがちです。
導入100箇所以上! NOMAL ART COMPANYの壁画制作事例はこちら
プロジェクト:セントジェームズ・タウン地区の再開発工事
アーティスト:Yasaman Mehrsa
2023年に制作された、仮囲いアートの展示会。プロデュースはstepsというカナダのパブリックアートでコミュニティを盛り上げることを目的としている団体です。壁画だけでなく、インスタレーションなども含め数々のアートを生み出しています。まだまだ日本では、ここまで生活の中にアートが溶け込めていないので、日本でももっと気軽にアートに出会える場所が増えていくと良いですよね。
この仮囲いアートを手掛けたのは、トロントを拠点に活動するアーティスト:ヤサマン・メルサです。「カラフルな小道」と名付けられたこの作品は、よく見ると様々な形の”靴”が描かれています。実は靴って、その持ち主の好みや性格などパーソナルな部分がとても現れます。その靴と、工事が行われた地区の自然・動物・食べ物などのモチーフが組み合わされ、地域の生活の場が色鮮やかに表現されています。地域の活気や多様性をカラフルなカラーで表現し、近所を楽しく歩いて欲しいという想いから小道が象徴的に描かれているのだとか。
素敵な靴は、あなたを素敵な場所に連れて行ってくれる。なんて言葉もありますが、自分が住んでいる地域を歩きながら改めて街を見てみようという気分になってくるアートですね。
建設現場の殺風景な風景を、アートの展示会に変えてしまった例です。
プロジェクト:MIYASHITA PARK ART PROJECT
アーティスト:金安亮(かねやすりょう)
再開発工事中の2019年の渋谷の街に現れたのは、約200mを超える長さの仮囲いアート。 そこに描かれているアートが、一つの物語になっていると当時SNSでとても話題になりました。渋谷といえばハチ公の銅像を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?物語はそのハチ公前から始まります。
「少女と愛犬」のコンビが、渋谷の街へお散歩に出かけますが、モヤイ象の前で踊るダンサー達に驚いて愛犬のリードを離してしまいます。はぐれてしまった「少女と愛犬」は、109やセンター街の入り口、スクランブル交差点やショッピング街など渋谷の名所を巡りながらお互いを探し求めます。「少女」は109の前でギャルのお姉さんに尋ねたり、ストリートミュージシャンと一緒に歌いながら探したり、探し回って疲れ果てて座り込んでしまった場所で出会ったのは盲目のお婆さん。お婆さんを道案内した先で再会するのは、少し前に「愛犬」を見ていないか尋ねた同性愛者のカップルです。さっき見かけたよ!と教えてもらって走ってハチ公前まで向かいます。ハチ公前で無事再開できた「少女と愛犬」を最後に、ラストシーンでは街中を探し回った時に出会った人々が描かれます。一つの街で起こる、助け合いと出逢いにとても心暖まる物語が描かれています。
優しい雰囲気のタッチで渋谷の各名所を取り込みながら描いているので、ワンシーンを切り取っても素敵ですが、仕組みに気づいた時にぐるっと歩いて見たくなりますね。
何もしなければ200mのただの白い壁になってしまうところだったこの仮囲いが、見事に活用されて街に活気を与えている例になります。
気になる方はぜひ、当時話題になったX(Twitter)の動画もご覧ください。
アートディレクション+デザイン:田中悠介(designと)
MAKUHARI BAY-PARK内の商業施設予定地の仮囲いアート。
建設現場の仮囲いのところどころがぺらっとめくられて、「この先の未来」が表現されています。埋立地で何もない場所からの開発なため何もなかった街から、街が賑わっていく様子を壁の隙間から覗き見るように描いたのだとか。商店街の賑わいや、公園でのイベントなど、この街にこの先出来上がっていく近い未来から、あったらいいなという少し先の未来まで、覗き見るってなんだかワクワクしますよね。
この仮囲いの場所は、マンションから駅までの通り道であるためインパクトのある大きな絵よりも、少し近づいて覗き込むように見て、歩くたびに楽しんで未来を想像して欲しいという思いから制作されています。近づいて見るからこそ面白みが伝わる、大きく描くのも小さく描くのも目的に合わせて表現方法はさまざまです。
また少し話は変わりますが、日本には屋外広告条例と言って地域によって壁の何%までが、広告(アートも含む)を描けるかが決まっています。この仮囲いアートは余白があることを逆に強みにして、広告条例が厳しいエリアでも条例とアートのコンセプトをしっかりと両立させている例でもあります。
アーティスト:不明
1953年7月に写真家イルマ・ルイーズにより撮影された仮囲いアートです。
実はこちら、作風とタッチが単純に筆者の好みで発想が可愛い!ご紹介したい!という思いで最初は選出しました。子供の頃って確かに隠されている壁の先って何があるのか覗いてみたかったよね、その思いがすごく表現されているなぁと。 調べていても正確な文献はなかなか見つけられなかったのですが、「1953年のベルリン」というとピンとくる方ももしかしたらいらっしゃるのではないでしょうか? 1953年6月は東ベルリン暴動があり、過酷な生産ノルマを課せられた労働者が自由を求めて反乱を起こした年です。その直後に撮影されているのがこの仮囲いアートです。当時まだベルリンの壁は建設されておらず自由に東西を行き来できた時期ですが、冷戦の最中で東西の対立が激化していた時期で、そんな激動の中の日常を切り取った写真の一つ。
これは今この作品を見るから言えることですが、作者は何か壁の先を求めたくなるような未来が起こる予兆を感じていたのかな?なんて妄想しながら、見ることもできますね。工事が完成したらなくなってしまう仮囲いだからこそ、普遍的なデザインではなく情勢や流行りを色濃く反映したものを作ることができるのも仮囲いアートの楽しみ方の一つです。
英語では「hoarding art」(ホーディングアート)とも呼ばれる仮囲いですが、その始まりは主に1960年代から1970年代にかけての都市再生や公共空間の美化運動にさかのぼります。 同時期に、ニューヨークやパリといった都市では、ストリートアーティスト達が公共の壁をキャンバスにしたストリートアートやグラフティ行為が活発になっています。都市開発のタイミングと、アーティスト達の社会的メッセージの発信や都市の景観に新たな命を吹き込む活動が、密接に関わり仮囲いアートは発展していっています。
壁画やグラフィティについては、ミューラルアート とは?その意味とは?街を彩る最大規模のアートの役割。海外の事例から、日本でミューラルを楽しめるスポットまでの記事をご覧ください。
そんな仮囲いアートの先駆け的存在の中でも代表的なものの一つが、この「ドックランズ・コミュニテイ・ポスタープロジェクト(DCPP)」です。 約縦3.6m × 横5.5mのフォトミューラル(壁画)が、同時期に最大で6作品掲載し・10年間の合計18作品が、一つのコンセプトの元地域の中に点々と掲示されたこのプロジェクトですが何故そんなプロジェクトが行われたのか気になりませんか?
ロンドンのドックランズは、歴史的に港湾や倉庫が集まる労働者階級の地域です。1960年代以降、輸送技術の変化により経済的に衰退していき、保守党政府が大規模な再開発計画を立てました。ですがこの計画は、地元住民の生活に密接に関係するにも関わらず、住民の声は全く反映されていませんでした。 そこで地域住民に、再開発に対して声を上げ、未来を形作るための手段を提供するためにアーティストの協力を得て、始まったのがこのDCPPです。仮囲いや掲示板に大きなフォトミューラル(壁画)を貼り出し、都度更新されていくことで、地域の人々に再開発の進捗やその影響についての情報を伝えたのです。
DCPP関係者の言葉で、「土地について、あれこれと話がたくさんありますが、ドックランズは土地の問題ではありません。それは人々のことです。そして、人々の生まれながらの権利が売り渡されています。人々はこの土地を所有したことはなくても、この土地で暮らし、働き、命を落としてきました。それが彼らの遺産であり、彼らの未来であるべきなのです。」というような言葉が残されています。土地の価値や再開発の価値について語る開発サイドと、その土地で実際に暮らしてきた人達に焦点を当てるのか。立場が変わると見えるものもずいぶんと変わってきそうですよね。
約10年間にわたり続いたこのドックランズ・コミュニテイ・ポスタープロジェクト(DCPP)は、単なる情報提供だけでなく、住民が団結し権利を守るための抗議活動にもなり、仮囲いアートが地域に影響を与えた代表的な例の一つです。
パリに行った際には一度は訪れたい場所の一つでもある観光名所のオペラ・ガルニエ。2024年末まで改修工事が行われています。せっかく観光で訪れた場所が足場で囲まれていたらとてもショックですよね。でも、そこはさすが芸術の都と称されるパリです。仮囲いを活かしてアートにするだけでなく、パフォーマンスアートとしても訪れた人々を楽しませています。
描かれているのは、トリックアートのように洞窟をモチーフにした仮囲いアートです。古代ギリシャでは歌や踊りは神々を祝うものとして洞窟の中で行われていました。時代を経て建設技術の発展により、都市に劇場ができたというストーリーを鑑賞者に思い起こさせます。この仮囲いアートだけでも充分にすごいのですが、驚くことにさらにこの工事期間を活用してパフォーマンスアートの舞台にもなっています。 オペラの台本のように2幕構成で行われたパフォーマンスは、仮囲いの様相も1幕と2幕では飾り変えており、まるで劇場が屋外に飛び出してきたかの様な演出が行われました。
これには、せっかく訪れたオペラ座が改修工事と知ってがっかりするどころか、工事期間だからこそ行ってよかったね!というような会話が生まれそうですね。工事期間というマイナスイメージを見事に逆転した仮囲いの活用例です。残念ながら、こちらのアートは現在は観れないものですが、それもその時しか観れないというプレミア感の演出でもありますね。
ちなみこのオペラ座の改修工事は、ご紹介したアート以外に仮囲いを広告活用している時期もあり、その広告費用はオペラ座の改修費用に当てられているとのことです。ただの壁を広告に変えて収益を得る、しかもそれがアートなので目を引くものであるなんて最高だと思いませんか?
壁画の広告メディアとしての活用については明治ザ・チョコレートのリニューアルに伴う限定制作!WHOLE9が描く、テーブルの上のチョコレートの世界を描いた広告壁画の記事をご覧ください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。単に「仮囲い」と言っても様々な活用方法があることを感じていただけたでしょうか?
仮囲いは何もしなければ白い壁。それだけでも安全を守るという本来の機能は充分にはたしています。ですが、そこにアートが入ることによって様々な可能性が広がります。
工事中のプロジェクトの完成を連想させワクワクしながら完成を待てるようなアートや、なぜ今この工事をするのかという企業のメッセージを伝えるものなど。単純に工事期間中も楽しんでもらいたい!という想いをこめた賑わいを作るためのアートや、美術館を街中に出現させたような演出をすることもできますね。場所によっては、仮囲いアートによって広告収益と賑わいの両方を得ることだって可能です。
自分の街に、期間限定のアートがあれば工事期間中も楽しく街歩きができそうだなと思ってきませんか?少しずつ日本でも増えてきている仮囲いアートです。本音を言えば、実際の建物にもっと壁画が増えて街がいろんな表現で彩られていくことが筆者の目標ではありますが、工事期間中という限定された期間という条件があるからこそ、できる表現がたくさんあります。日本のどこかでは常に工事が行われていますが、地域住民や訪れる方々が「工事決まったらしいね!今度の工事ではどんなアートが入るのかな?」というような会話が聞こえてきたら素敵ですよね。工事の完成だけでなく、工事の期間も楽しみに待つことが普通になるような日が来たらいいななんて願いをこめてこの記事を書いています。
NOMAL ART COMPANYでは1㎡からアート制作が可能です。今のAI最先端の時代にあえての手書きをすることによって完成後だけでなく制作期間から話題になることがアーティストが絵を描くということの強みであると考えていますが、もちろんシートなどにして仮囲いに貼れる仕様にすることも可能です。
少しでもご興味がある方や、とりあえず話を聞いてみたいなんて方もお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
本記事では、100作品以上の壁画制作を手がけるNOMAL ART COMPANYが、仮囲いを活用してアートが街へもたらす効果と共に様々な事例をご紹介致します。
【著者】 NOMAL ART COMPANY/スタッフ
1992年生まれ。これまでオフィス・店舗・パブリック等の数々の壁画ディレクションに携わる。壁画を初め、アート作品に込められたメッセージや意図が見えた時に悶絶するタイプ。ストーリーがあるものに愛着を持ちがちです。
導入100箇所以上! NOMAL ART COMPANYの壁画制作事例はこちら
目次
・仮囲いアートの多様な事例
1.街を”歩く”という日常生活にフォーカスした仮囲いアート@トロント
プロジェクト:セントジェームズ・タウン地区の再開発工事
タイトル:「Colourful Paths(カラフルな小道)」
アーティスト:Yasaman Mehrsa
プロデュース:steps
2023年に制作された、仮囲いアートの展示会。プロデュースはstepsというカナダのパブリックアートでコミュニティを盛り上げることを目的としている団体です。壁画だけでなく、インスタレーションなども含め数々のアートを生み出しています。まだまだ日本では、ここまで生活の中にアートが溶け込めていないので、日本でももっと気軽にアートに出会える場所が増えていくと良いですよね。
この仮囲いアートを手掛けたのは、トロントを拠点に活動するアーティスト:ヤサマン・メルサです。「カラフルな小道」と名付けられたこの作品は、よく見ると様々な形の”靴”が描かれています。実は靴って、その持ち主の好みや性格などパーソナルな部分がとても現れます。その靴と、工事が行われた地区の自然・動物・食べ物などのモチーフが組み合わされ、地域の生活の場が色鮮やかに表現されています。地域の活気や多様性をカラフルなカラーで表現し、近所を楽しく歩いて欲しいという想いから小道が象徴的に描かれているのだとか。
素敵な靴は、あなたを素敵な場所に連れて行ってくれる。なんて言葉もありますが、自分が住んでいる地域を歩きながら改めて街を見てみようという気分になってくるアートですね。
建設現場の殺風景な風景を、アートの展示会に変えてしまった例です。
2.SNSでも話題!全長200mの仮囲いに描かれた心温まる物語@渋谷
プロジェクト:MIYASHITA PARK ART PROJECT
タイトル:「A YEAR IN THE LIFE SHIBUYA」
アーティスト:金安亮(かねやすりょう)
プロデュース:365ブンノイチ
再開発工事中の2019年の渋谷の街に現れたのは、約200mを超える長さの仮囲いアート。 そこに描かれているアートが、一つの物語になっていると当時SNSでとても話題になりました。渋谷といえばハチ公の銅像を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?物語はそのハチ公前から始まります。
「少女と愛犬」のコンビが、渋谷の街へお散歩に出かけますが、モヤイ象の前で踊るダンサー達に驚いて愛犬のリードを離してしまいます。はぐれてしまった「少女と愛犬」は、109やセンター街の入り口、スクランブル交差点やショッピング街など渋谷の名所を巡りながらお互いを探し求めます。「少女」は109の前でギャルのお姉さんに尋ねたり、ストリートミュージシャンと一緒に歌いながら探したり、探し回って疲れ果てて座り込んでしまった場所で出会ったのは盲目のお婆さん。お婆さんを道案内した先で再会するのは、少し前に「愛犬」を見ていないか尋ねた同性愛者のカップルです。さっき見かけたよ!と教えてもらって走ってハチ公前まで向かいます。ハチ公前で無事再開できた「少女と愛犬」を最後に、ラストシーンでは街中を探し回った時に出会った人々が描かれます。一つの街で起こる、助け合いと出逢いにとても心暖まる物語が描かれています。
優しい雰囲気のタッチで渋谷の各名所を取り込みながら描いているので、ワンシーンを切り取っても素敵ですが、仕組みに気づいた時にぐるっと歩いて見たくなりますね。
何もしなければ200mのただの白い壁になってしまうところだったこの仮囲いが、見事に活用されて街に活気を与えている例になります。
気になる方はぜひ、当時話題になったX(Twitter)の動画もご覧ください。
3.壁の先の「未来」を想像させる仮囲いアート@幕張
プロジェクト:MAKUHARI BAY-PARK
アートディレクション+デザイン:田中悠介(designと)
イラスト:イスナデザイン
MAKUHARI BAY-PARK内の商業施設予定地の仮囲いアート。
建設現場の仮囲いのところどころがぺらっとめくられて、「この先の未来」が表現されています。埋立地で何もない場所からの開発なため何もなかった街から、街が賑わっていく様子を壁の隙間から覗き見るように描いたのだとか。商店街の賑わいや、公園でのイベントなど、この街にこの先出来上がっていく近い未来から、あったらいいなという少し先の未来まで、覗き見るってなんだかワクワクしますよね。
この仮囲いの場所は、マンションから駅までの通り道であるためインパクトのある大きな絵よりも、少し近づいて覗き込むように見て、歩くたびに楽しんで未来を想像して欲しいという思いから制作されています。近づいて見るからこそ面白みが伝わる、大きく描くのも小さく描くのも目的に合わせて表現方法はさまざまです。
また少し話は変わりますが、日本には屋外広告条例と言って地域によって壁の何%までが、広告(アートも含む)を描けるかが決まっています。この仮囲いアートは余白があることを逆に強みにして、広告条例が厳しいエリアでも条例とアートのコンセプトをしっかりと両立させている例でもあります。
4.隠されているモノは見たくなる。心情を表現したユーモラスな仮囲いアート@ベルリン
プロジェクト:ベルリナー・モルゲンポスト新聞社の建設現場
アーティスト:不明
写真家:Irma Luise(イルマ・ルイーズ)
1953年7月に写真家イルマ・ルイーズにより撮影された仮囲いアートです。
実はこちら、作風とタッチが単純に筆者の好みで発想が可愛い!ご紹介したい!という思いで最初は選出しました。子供の頃って確かに隠されている壁の先って何があるのか覗いてみたかったよね、その思いがすごく表現されているなぁと。 調べていても正確な文献はなかなか見つけられなかったのですが、「1953年のベルリン」というとピンとくる方ももしかしたらいらっしゃるのではないでしょうか? 1953年6月は東ベルリン暴動があり、過酷な生産ノルマを課せられた労働者が自由を求めて反乱を起こした年です。その直後に撮影されているのがこの仮囲いアートです。当時まだベルリンの壁は建設されておらず自由に東西を行き来できた時期ですが、冷戦の最中で東西の対立が激化していた時期で、そんな激動の中の日常を切り取った写真の一つ。
これは今この作品を見るから言えることですが、作者は何か壁の先を求めたくなるような未来が起こる予兆を感じていたのかな?なんて妄想しながら、見ることもできますね。工事が完成したらなくなってしまう仮囲いだからこそ、普遍的なデザインではなく情勢や流行りを色濃く反映したものを作ることができるのも仮囲いアートの楽しみ方の一つです。
5.仮囲いアートの先駆け的存在。再開発における地域のメッセージを伝えるアート@ロンドン
プロジェクト:ドックランズ・コミュニティ・ポスタープロジェクト
代表されるアーティスト:ピーター・ダン / ロレイン・リーソン
英語では「hoarding art」(ホーディングアート)とも呼ばれる仮囲いですが、その始まりは主に1960年代から1970年代にかけての都市再生や公共空間の美化運動にさかのぼります。 同時期に、ニューヨークやパリといった都市では、ストリートアーティスト達が公共の壁をキャンバスにしたストリートアートやグラフティ行為が活発になっています。都市開発のタイミングと、アーティスト達の社会的メッセージの発信や都市の景観に新たな命を吹き込む活動が、密接に関わり仮囲いアートは発展していっています。
壁画やグラフィティについては、ミューラルアート とは?その意味とは?街を彩る最大規模のアートの役割。海外の事例から、日本でミューラルを楽しめるスポットまでの記事をご覧ください。
そんな仮囲いアートの先駆け的存在の中でも代表的なものの一つが、この「ドックランズ・コミュニテイ・ポスタープロジェクト(DCPP)」です。 約縦3.6m × 横5.5mのフォトミューラル(壁画)が、同時期に最大で6作品掲載し・10年間の合計18作品が、一つのコンセプトの元地域の中に点々と掲示されたこのプロジェクトですが何故そんなプロジェクトが行われたのか気になりませんか?
ロンドンのドックランズは、歴史的に港湾や倉庫が集まる労働者階級の地域です。1960年代以降、輸送技術の変化により経済的に衰退していき、保守党政府が大規模な再開発計画を立てました。ですがこの計画は、地元住民の生活に密接に関係するにも関わらず、住民の声は全く反映されていませんでした。 そこで地域住民に、再開発に対して声を上げ、未来を形作るための手段を提供するためにアーティストの協力を得て、始まったのがこのDCPPです。仮囲いや掲示板に大きなフォトミューラル(壁画)を貼り出し、都度更新されていくことで、地域の人々に再開発の進捗やその影響についての情報を伝えたのです。
DCPP関係者の言葉で、「土地について、あれこれと話がたくさんありますが、ドックランズは土地の問題ではありません。それは人々のことです。そして、人々の生まれながらの権利が売り渡されています。人々はこの土地を所有したことはなくても、この土地で暮らし、働き、命を落としてきました。それが彼らの遺産であり、彼らの未来であるべきなのです。」というような言葉が残されています。土地の価値や再開発の価値について語る開発サイドと、その土地で実際に暮らしてきた人達に焦点を当てるのか。立場が変わると見えるものもずいぶんと変わってきそうですよね。
約10年間にわたり続いたこのドックランズ・コミュニテイ・ポスタープロジェクト(DCPP)は、単なる情報提供だけでなく、住民が団結し権利を守るための抗議活動にもなり、仮囲いアートが地域に影響を与えた代表的な例の一つです。
6.観光名所の改修工事。訪れた観光客をがっかりさせずに楽しませる仮囲いアート@パリ
プロジェクト:パリ・オペラ座「ガルニエ宮」の改修工事
アーティスト:JR
パリに行った際には一度は訪れたい場所の一つでもある観光名所のオペラ・ガルニエ。2024年末まで改修工事が行われています。せっかく観光で訪れた場所が足場で囲まれていたらとてもショックですよね。でも、そこはさすが芸術の都と称されるパリです。仮囲いを活かしてアートにするだけでなく、パフォーマンスアートとしても訪れた人々を楽しませています。
描かれているのは、トリックアートのように洞窟をモチーフにした仮囲いアートです。古代ギリシャでは歌や踊りは神々を祝うものとして洞窟の中で行われていました。時代を経て建設技術の発展により、都市に劇場ができたというストーリーを鑑賞者に思い起こさせます。この仮囲いアートだけでも充分にすごいのですが、驚くことにさらにこの工事期間を活用してパフォーマンスアートの舞台にもなっています。 オペラの台本のように2幕構成で行われたパフォーマンスは、仮囲いの様相も1幕と2幕では飾り変えており、まるで劇場が屋外に飛び出してきたかの様な演出が行われました。
これには、せっかく訪れたオペラ座が改修工事と知ってがっかりするどころか、工事期間だからこそ行ってよかったね!というような会話が生まれそうですね。工事期間というマイナスイメージを見事に逆転した仮囲いの活用例です。残念ながら、こちらのアートは現在は観れないものですが、それもその時しか観れないというプレミア感の演出でもありますね。
ちなみこのオペラ座の改修工事は、ご紹介したアート以外に仮囲いを広告活用している時期もあり、その広告費用はオペラ座の改修費用に当てられているとのことです。ただの壁を広告に変えて収益を得る、しかもそれがアートなので目を引くものであるなんて最高だと思いませんか?
壁画の広告メディアとしての活用については明治ザ・チョコレートのリニューアルに伴う限定制作!WHOLE9が描く、テーブルの上のチョコレートの世界を描いた広告壁画の記事をご覧ください。
・仮囲いの活用方法とアートの可能性
最後まで読んでいただきありがとうございます。単に「仮囲い」と言っても様々な活用方法があることを感じていただけたでしょうか?
仮囲いは何もしなければ白い壁。それだけでも安全を守るという本来の機能は充分にはたしています。ですが、そこにアートが入ることによって様々な可能性が広がります。
工事中のプロジェクトの完成を連想させワクワクしながら完成を待てるようなアートや、なぜ今この工事をするのかという企業のメッセージを伝えるものなど。単純に工事期間中も楽しんでもらいたい!という想いをこめた賑わいを作るためのアートや、美術館を街中に出現させたような演出をすることもできますね。場所によっては、仮囲いアートによって広告収益と賑わいの両方を得ることだって可能です。
自分の街に、期間限定のアートがあれば工事期間中も楽しく街歩きができそうだなと思ってきませんか?少しずつ日本でも増えてきている仮囲いアートです。本音を言えば、実際の建物にもっと壁画が増えて街がいろんな表現で彩られていくことが筆者の目標ではありますが、工事期間中という限定された期間という条件があるからこそ、できる表現がたくさんあります。日本のどこかでは常に工事が行われていますが、地域住民や訪れる方々が「工事決まったらしいね!今度の工事ではどんなアートが入るのかな?」というような会話が聞こえてきたら素敵ですよね。工事の完成だけでなく、工事の期間も楽しみに待つことが普通になるような日が来たらいいななんて願いをこめてこの記事を書いています。
NOMAL ART COMPANYでは1㎡からアート制作が可能です。今のAI最先端の時代にあえての手書きをすることによって完成後だけでなく制作期間から話題になることがアーティストが絵を描くということの強みであると考えていますが、もちろんシートなどにして仮囲いに貼れる仕様にすることも可能です。
少しでもご興味がある方や、とりあえず話を聞いてみたいなんて方もお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
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