アート思考とは?イノベーションを生む思考法のトレーニングやデザイン思考との違いを解説
- #アート思考
目次
アート思考とは何か
「アート思考」。最近この言葉をよく聞く、という方も多いのではないでしょうか。
「デザイン思考」の次に出てきた概念で、「アーティスト的な思考回路」のことを「アート思考」と呼びます。そう言われても、どう役立つのか分かりにくいですよね。
ここではアート事業を自ら立ち上げ、現在多数の企業に向けてアート思考ワークショップを実施している著者の平山が、「なぜ流行っているのか」「デザイン思考とは何が違うのか」「ビジネスにどう生かすのか」「トレーニング法は」など、ひと通りわかるように解説していきます。

アート思考とはゼロイチを産む思考法
それでは、早速ですが「アート思考」とは何でしょうか。
「アーティストが作品作りの際に用いる思考法」であり、噛み砕いて言うと「自分目線で自由に発想する」ことがアート思考です。
「アート思考」は、「イノベーションを生むもの」や「ビジネスの役に立つ」などと言われますが、もともとは子供から大人まで誰もが持っているような「好き・嫌い」というシンプルな思考がベースになっています。
それでは、このある意味自分勝手な思考法が、なぜビジネスで話題になっているのでしょうか?
具体的なビジネスへの活かし方を説明する前に、なぜアート思考が今流行っているのか、デザイン思考と比較しながら考えてみましょう。
アート思考を一言で言うと|基本の疑問
Q. アート思考とは何ですか?
アート思考とは、アーティストが作品を制作するときに使う思考法をビジネスに応用したものです。他者の課題ではなく、自分自身の直感や「好き・嫌い」を起点に発想する点が特徴です。
Q. アート思考とデザイン思考の違いは何ですか?
デザイン思考は、ユーザーの課題を起点に解決策を導き出す「他者目線」の思考法です。アート思考は、自分自身の直感や主観を起点に発想する「自分目線」の思考法である点で異なります。
Q. アート思考はビジネスにどう役立ちますか?
アート思考を取り入れると、多数派の意見に流されない独自の発想が生まれやすくなります。既存の延長線上にはない、非連続なイノベーションにつながりやすくなる点が、ビジネスで注目されている理由です。
アート思考が何故流行っているのか?デザイン思考との比較
デザイン思考は「他者目線」、アート思考は「自分目線」
まず「デザイン思考」について触れておきましょう。
デザイン思考とは「課題の本質を見つけて、それに対する解決策をユーザー視点で導き出すこと」です。多数のフレームワークがありますが、フレームワークの多くは「ユーザー起点」で物事が進みます。
まずユーザーにとっての現場の課題をできるだけ多く抽出し、その中から課題の本質を見つけて、解決策をディスカッションしていきます。

デザイン思考は、現時点での情報整理や、チームメンバーの課題に対する視点をプロットするには有用な思考法と言えるでしょう。
対してアート思考は、ユーザー起点ではなく自分視点の発想が全て。アプローチが全く逆の思考法なのです。現在アート思考が流行っているのは、この思考法が常識を打ち破るイノベーション発想に必要だと言われているからです。
デザイン思考がイノベーションを生みづらい理由
デザイン思考ではイノベーションを生みづらい理由は、大きく分けて3つあります。
1つ目は、チームで解決策を探ると最終的なアウトプットが平均をとったものになりがちだから。多数派に流されて、突飛なアイディアは潰れてしまいがちです。尖ったアイディアも丸く研磨されてしまいます。

2つ目は、現状起点で議論が始まるため、結局現状の延長で収まってしまうからです。車がなく馬車があった時代に「もっと早く走りたい」という要望があれば、誰もが「早く走る馬を手配しよう」と提案したでしょう。「エンジンを搭載した、自動で走る機械を作ろう!」という発想をした人はほぼいないはずです。現状の延長の発想からは、どうしてもイノベーションが生まれづらくなります。
3つ目は、ユーザーの課題起点の解決策は、同業他社が同じところにたどり着いている可能性が高いからです。つまり、ライバルが多く、価格競争などに巻き込まれてしまう可能性が高くなります。
認知科学者として知られるドナルド・ノーマンは、イノベーションを調査する中で、社会のニーズ分析だけを起点にした急進的なイノベーション事例はほとんど見当たらないと指摘しています。つまり、イノベーションはユーザー分析を起点とする「デザイン思考」だけからは生まれにくいということがわかります。
アート思考が活きた、3つのイノベーションの例
それではここから具体的な例を挙げて、アート思考が活きたと推測されるイノベーション事例をお話しします。事例からは、イノベーションを生み出すためのある共通点を見出すことができます。それでは、事例を見ていきましょう。
①Apple社のiPhone
言わずと知れたスティーブ・ジョブズが開発したiPhoneですが、Apple社は顧客調査をどこよりも正確に行なったからiPhoneを生み出せたのでしょうか。いえ、そうではありません。
むしろ顧客のニーズを聞いていたら、現在のiPhoneは生み出されなかったでしょう。事実、Apple社は顧客調査をほとんどしない企業として今も有名です。
iPhoneが生み出された背景には、「優れたデバイスを生み出す」という同社の命題と、ジョブズの持つ「世界の人がポストPCのような端末を持てたら良い」という主観が噛み合い、その情熱に周りが動かされたことがあります。
結果はもちろん誰もが知る通り、iPhoneは21世紀を代表する大きなイノベーションとなりました。
②SONYのウォークマン
当時の盛田会長が推し進めた「ウォークマン」の開発。
きっかけは実はとてもパーソナルなもので、当時の名誉会長であった井深大が、旅客機内で綺麗な音で音楽が聴けるデバイスを作ってほしいと、事業部長であった大曾根部長に依頼したところから始まったそうです。
当時は録音機能が必要とされていた世の中で、「ただ音楽を持ち歩ける」ことに機能を特化させたウォークマンは、周囲から売れないとされていたといいます。
順風満帆ではなかったであろうウォークマンの開発中、当時のテープレコーダー部の大曾根部長は、SONYの公式サイトによれば、じっくり検討すればするほど難しい課題ばかり見つかってしまうため、検討を重ねる前にまず思い切って挑戦する決断が必要だ、という趣旨の発言を残していたそうです。
出典:https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-06.html
この発言は、チームでの合議を待たずに自分のパッションを優先しなさい、と言っているようにも聞こえます。
スピード感を持って生み出されたウォークマンは、井深名誉会長だけではなく、日本中の人々の生活を豊かなものにしました。
③バルミューダ社のBALMUDA The Toaster
最後に、バルミューダ社の例をお話ししましょう。同社が開発したトースター「BALMUDA The Toaster」は注水口が搭載されており、そこに水を入れることでパンが中からふっくら焼き上がるというトースターです。

価格は通常のトースターの倍以上である27,000円前後。それでもスマートなデザインと、いつものパンが一手間で生まれ変わるという体験が、顧客を魅了していきました。以降、トースターに端を発したバルミューダ社は、次々と魅力的な製品を世に送り出しています。
さて、新発想のトースターが生まれたきっかけは、顧客インタビューではありません。ある日、代表取締役の寺尾玄氏がバーベキューに行った日のこと。
雨の中で焼いた食パンがいつもより美味しく感じた、という経験から「湿気が重要ではないか?」という発見へつながり、それまでの世の中にない魅力を持ったトースターの開発へとつながったのです。
日々できる!アート思考のトレーニング方法とは
それでは、上記の先人のように私たちがアート思考をトレーニングし、発揮するには何が必要なのでしょうか。
アート思考はフレームワークのような方法論ではなく、日々を過ごす中で少しずつ培っていくものだと著者は考えています。
ここからは簡単なアート思考のトレーニング方法をお伝えします!本当に些細なことなので、ぜひ試してみてくださいね。
①自分の過去で嫌だったことを振り返る
今まで人から言われて嫌だった言葉はありますか?イライラしたシチュエーションは?
そうした嫌な記憶の裏側に、主観の影が眠っていることが多いです。記憶に残る嫌だった言葉を思い返してみましょう。もちろん、記憶に残る嬉しかったことも「なぜ嬉しかったのか?」を再度深掘りしてみましょう。
②好き・嫌いを自覚する
毎日忙しく仕事をしていると、自分の好き・嫌いは疎かになり、正しい・正しくないにとらわれがちです。ですが、日々の小さい「好き・嫌い」に敏感になってください。
「こちらの方が気持ちいいな」「こちらのほうがなんか好きだな」と直感的に選ぶ時が、誰でも日々何回もあるはずです。直感で選んだ後に「なぜ自分はこっちを選んだのだろう?」と選択の結果を俯瞰して見てみましょう。直感と論理を反復運動することで、主観はどんどん研ぎ澄まされたものになっていきます。
例えば赤と青のハンカチが目の前にあり、青のハンカチを何気なく選んだとき。「なぜ自分は青を選んだのだろう?」と理由を後から考えてみてください。些細な選択の中にも、大事な主観が潜んでいます。
③余白をもち思うままに行動してみる
日々の中にほんの少しの余白を持ち、その余白で自分がどういう行動や思考をするか観察してあげてください。理性的な判断をしすぎたり、予定を詰めすぎたりすると、アート思考を発揮する余地がなくなってしまいます。
さて、一見ビジネスに関係がないように思いますよね。アート思考のトレーニングの心構えとして重要なのは、点と点が結びつくタイミングがいつなのかは、誰にもわからないということです。
皆様の中にも経験がある人がいるかもしれませんが、あるとき突然10年前の出来事が意味を持ってきたりすることがあります。まさに点と点がつながり、線になる瞬間であり、それこそがイノベーションと言えます。そうした瞬間が将来あるかもしれないと信じて、直感的に選択していくことをお勧めします。
さて、ではこの個人的な発想である「アート思考」を起点に、会社で事業化するにはどうしたら良いのでしょうか?
アート思考を組織で生かすには
それでは、アート思考を会社や組織で生かすにはどうしたら良いのでしょうか。
アート思考は「自分」起点だからこそ個人的なものに終始してしまい、ビジネスに転換しづらいというデメリットがあります。アート思考とデザイン思考をバランスよく発揮し、イノベーションを起こすためには、どういった環境が必要なのでしょうか。
アート思考を発揮するための環境づくりとは
アート思考は、社長や経営者にとっては有用かもしれませんが、立場によっては発揮しづらい思考法だと思います。だからこそ、アート思考による直感的な発言がしやすい環境であることも大切です。

アート思考の発言を歓迎する環境をつくる際には、あらかじめ一定のルールを設けておくことが大切です。「根拠もない、前例もない突飛なことを部下が言ってきたぞ・・・」と頭ごなしに否定するのは非常にもったいないことです。
例えばとあるゲーム会社では、何か思いついた場合は、二人の同僚を誘い、自分のプロジェクトに参加するよう説得できたらプロジェクト化するというルールがあるようです。
この「二人の説得ルール」により、当事者の主観への共感性や、パッションの度合いを測ることができると言えるでしょう。
Googleでは、業務時間のうち20%の時間を自分のプロジェクトに充てるという「20%ルール」が存在しました。この20%ルールにより、社員は業務以外の可能性に目を向けることができたのです。
より良い人生につながる アート思考 の効能
長々と書いてしまいましたが、アート思考が少し身近に感じてもらえたら幸いです。
アート思考がアート思考と呼ばれるのは、「他者ではなく自分目線で自由に発想する」を地でいくのがアーティストだからです。この場合の行動とは、アーティストにとっての作品作りに他なりません。
さて、アート思考はビジネスでイノベーションを生むだけのものではなく、「よりよく生きる」ために大切な考え方でもあります。

主観に基づいて判断を積み重ねるため、自己理解につながり、成功体験が起これば深い自己承認につながります。結果的に自分の直感や判断に無自覚に自信が持てる、自律性がありながらも自由な人間へと近づくことができるのです。
まずは些細な好き・嫌いを見つめ直すことから。
明日の朝、起きたらあなたは何をしますか?その行動を、ぜひ見つめ直し、自分と再度向き合ってみてください。
弊社ではこれまで、NECやコクヨなど大手企業を含む複数社にアート思考ワークショップを提供してきました。興味のある方は、ぜひお問い合わせフォームよりお問い合わせください。
- マネージャー向けアート思考研修
- Well-Beingを目的としたアート思考研修
- ウォールアートを社内に入れることを目的としたアート思考ワークショップ
お気軽にお問い合わせください。


